昭和平成初期の喫茶店文化コーヒー1杯で何時間もくつろげた、あの頃の記憶
今ではすっかり見かけなくなった「昔ながらの喫茶店」。
20代の頃、私はそんな喫茶店が大好きで、
まるで自分の部屋のように、毎日のように通っていました。
当時はコーヒーが一杯250円から300円程度。
今のようなカフェチェーンも少なく、
個人経営の喫茶店が街の至るところにありました。
レトロなソファ、木のテーブル、
タバコの香りとコーヒーの匂いが混ざった独特の空間。
そこで私は、何時間でもくつろいでいたのです。
「コーヒー一杯で5時間、誰も文句を言わなかった時代」
今でこそ、カフェで長居をすると
白い目で見られることもありますが、
当時はそんな空気はまったくありませんでした。
「喫茶店はくつろぐ場所」
「心を落ち着ける場所」
これが当たり前の認識で、
300円で3時間、時には5時間いても、
誰にも咎められません。
むしろ、お店の人も顔なじみになり、
居心地のよい「もうひとつの居場所」になっていきました。
新聞を読む人、本に夢中になる人、
黙々とノートに書き物をする人、
友達とおしゃべりを楽しむ人。
時には学生のサークルの打ち合わせ、
仕事の会議まで、さまざまな人々が集う、
まさに街のサロンだったのです。
「集合場所=喫茶店だった頃の暮らし」
スマホもSNSもない時代、
誰かと会う時は「どこどこの喫茶店に10時集合ね」
という約束が主流でした。
駅前や街にはいたる所には喫茶店があり、
いつもにぎわっていました。
1日3回行くことも珍しくなく、
多い日は5回以上はしごすることもありました。
朝はモーニングを求めて喫茶店へ。
コーヒー1杯に、トースト、ゆで卵、
ポテトサラダやフルーツがついて250円から300円。
これが私の朝食ルーティンでした。
昼もまた喫茶店。
ランチセットにはドリンクが付いていて、
財布にも優しい。軽食だけ済ませて、
あとは読書や考え事に没頭する時間です。
仕事が終わってからは、
飲みに行かない日は喫茶店に直行。
まずはホットコーヒーを頼んで、
夜遅くまで静かに過ごすのが日課でした。
「雑誌・新聞・漫画…情報の宝庫だった店内」
今でこそスマホひとつで情報が手に入りますが、
当時は喫茶店が情報の入り口でした。
ほとんどの店には新聞が何紙も置いてあり、
朝刊・夕刊を自由に読めました。
雑誌や週刊誌、漫画やコミックも揃っていて、
キオスクやコンビニでわざわざ買わなくても、
店内で十分に楽しめたのです。
雑誌を読んで流行を知り、
新聞を読んで世の中の動きを知る。
こうした情報収集の時間もまた、
私にとっては貴重なひとときでした。
「テレビは深夜1時で終了。娯楽の中心は喫茶店だった」
当時の家庭内の娯楽といえば、テレビかラジオくらい。
パソコンやスマホもなければ、DVDもありません。
テレビ番組も深夜1時か2時には
すべて放送が終了していました。
テレビ東京(当時は東京12チャンネルでした)は特に早く、
1時前にはすでに砂嵐。
NHKでは自然風景とBGMを流しながら、
天気予報のテロップだけが
横に流れるような静かな映像が続いていました。
中でも印象的だったのは、
フジテレビがよく放送していた
「箱根 彫刻の森美術館」の風景。
今でも流れていますが
静かに流れる音楽と彫刻の映像は、
まさに終わりの時間を告げるものでした。
そんな夜の娯楽が限られた時代だからこそ、
喫茶店で過ごす時間が何よりも贅沢だったのだと思います。
「今、喫茶店文化を見直すときかもしれない」
時代が移り変わり、
喫茶店も次第に姿を消しつつあります。
チェーン系カフェは便利ですが、
あの頃のような人のぬくもりや
会話の温度は、なかなか感じられません。
私は今でも、時々レトロな喫茶店を見かけると、
ふと立ち寄ってしまいます。
そこには、どこか懐かしくて、
時間がゆっくり流れる空間があります。
コーヒー一杯で心が落ち着く。
そんな場所を、
私たちはこれからも大切にしていきたいものですね。